ドローン建物調査7つの要点|現場準備から報告書作成まで迷わない!

ドローンのリアルタイム映像を映す送信機の手元
撮影

高所の劣化箇所や外壁のひび割れを目視で確認するのは手間と危険が伴い、点検を先延ばしにしがちな管理者は多いです。

足場設置や目視検査はコスト・時間がかかり、見落としリスクも残るのが実情です。

本記事では、ドローンによる建物点検で得られるデータや機材、飛行計画、法的手続き、データ処理と報告書作成まで、実務で役立つ要点を章ごとに解説します。

まずは調査で何が分かるのかと現地準備のポイントから確認し、安全で効率的な点検方法を一緒に見ていきましょう。

ドローン建物調査

手のひらの上をホバリングする小型ドローン

ドローンを用いた建物調査は、高所や接近困難な箇所を安全かつ効率的に点検するための手法です。

近年のセンサー進化により、可視画像だけでなく、熱画像や3次元データまで取得可能になっています。

調査で得られるデータ

高解像度のRGB画像を用いて表面のひび割れや剥離を視認できます。

オルソモザイク画像により、建物全体を歪みなく俯瞰できる平面図が作成可能です。

写真測量(フォトグラメトリ)から生成した3次元点群で、屋根や外壁の形状を正確に把握できます。

赤外線カメラでは、断熱不良や隠れた漏水箇所など、肉眼では見えない異常を検出できます。

高倍率ズームカメラを使えば、遠距離からでも細部の損傷を詳細に確認できます。

LiDARデータは植生や構造物の影響を受けにくく、正確な寸法計測に向いています。

これらのデータは、劣化箇所の履歴管理や修繕計画の根拠資料として活用できます。

想定利用場面

ドローン建物調査が有効な場面は多岐にわたります。

  • 定期点検業務
  • 災害直後の被害把握
  • 改修前の現況把握
  • 歴史的建造物の非破壊検査
  • 太陽光パネル設置前の屋根評価

上記のような場面で、短時間で広範囲の情報を集められる点が最大の利点です。

対象建物の種類

戸建て住宅から高層ビルまで、ほぼすべての構造物に適用可能です。

工場や倉庫の大型屋根、橋脚や煙突の外部調査にも向いています。

歴史的建造物では、接触を避けた非破壊点検手段として重宝されます。

ただし、極端に狭い路地に囲まれた建物や屋内のみの調査は、機体や運用方法を選ぶ必要があります。

調査精度の指標

調査の品質を判断するための代表的な指標を挙げます。

指標 目安 備考
位置精度 2〜10cm GNSS受信環境に依存
高さ精度 5〜20cm 飛行高度とセンサーに依存
画像解像度 0.5〜3cm/pixel カメラ設定と飛行高度で変動
熱画像精度 ±1〜3℃ 環境温度とキャリブレーションが重要

これらの数値は機材や設定、環境条件で大きく変動しますので、事前に目標精度を定めることが重要です。

必要な気象条件

安定した風速が最重要で、一般的には風速5〜8m/s以下が望ましいです。

雨や雪が降るとカメラや電子機器に悪影響が出るため、原則として降水なしの条件で行います。

視界不良や逆光は画像品質を低下させるため、できれば曇天の安定した光環境を選びます。

極端な高温や低温ではバッテリー性能が落ちたり、センサーが正しく動作しないことがあります。

現地準備項目

現地での安全確保とスムーズな運用のために、事前準備は欠かせません。

関係者への飛行予定の周知や、必要な許可の取得を行ってください。

離発着エリアの確保と、周囲に立入禁止のバリケードや看板を設置することを推奨します。

バッテリーの充電状態確認、予備バッテリーの準備、機体とセンサーの点検を実施してください。

フォトグラメトリや精密測定を行う場合は、地上制御点を設置して座標を測定する必要があります。

近隣住民や関係者への配慮として、騒音やプライバシーへの対応を事前に検討してください。

想定期間と所要時間

小規模な住宅1棟の現況把握であれば、現地作業は半日程度で完了することが多いです。

中規模の商業ビルや工場の場合、準備と飛行を含めて1〜2日を見込むと安心です。

大規模施設や詳細なフォトグラメトリが必要な場合、複数日に分けての撮影と、後処理のための追加日数が必要になります。

データ処理時間は取得方式によって大きく変わり、簡易な写真確認なら数時間で済みますが、オルソや点群生成は数時間から数日かかることがあります。

総合的には、事前調整から報告書提出までを含めて、小規模案件で数日、中〜大規模案件で1〜2週間を想定してください。

機材とセンサー

タブレット付き送信機でドローンを操作する手元

ドローン建物調査で使われる機材とセンサーは、調査目的に応じて選定する必要があります。

軽量で拡張性の高い機体から、高精度の測距センサーまで、組み合わせにより成果物の精度が大きく変わります。

マルチローター機体

マルチローターはホバリングが可能で、狭所での低速近接撮影に優れております。

安定性が高く、ジンバル付きカメラとの組み合わせで高精細な画像を取得できます。

ペイロードの余地がある機体を選べば、赤外線カメラや高倍率ズームを同時搭載することも可能です。

飛行時間はバッテリーに依存するため、連続撮影が必要な場合は交換バッテリーや複数機体での運用を検討します。

狭隘な現場や屋上周辺など、障害物回避のための機体小型化とセンサー配置が重要です。

固定翼機体

固定翼機体は長時間飛行と広範囲の撮影を得意とするため、大規模な点検や外観調査に向いております。

ホバリングができないため、特定箇所を精細に撮るには別途マルチローターを併用する運用が一般的です。

滑走や打ち上げ装置が必要な場合があり、現地の離着陸スペースを事前に確認する必要があります。

速度が速く、撮影のオーバーラップ設定やシャッタリングタイミングの最適化が重要です。

RGBカメラ

RGBカメラは基本となる可視光撮影を担い、写真測量や劣化箇所の可視化に不可欠です。

  • 高解像度センサー
  • 固定焦点または可変絞り
  • マニュアル露出設定
  • ジンバル搭載安定化
  • シャッタースピード同期機能

オーバーラップ率はフォトグラメトリ用途で前方向70%以上、側方60%以上を目安にします。

マニュアルホワイトバランスと適切なシャッタースピード設定で、後処理の精度を高めることが可能です。

赤外線カメラ

赤外線カメラは断熱欠損や漏水に伴う温度差を可視化でき、非破壊診断に向いております。

測定温度レンジと温度分解能が調査目的に直結しますので、事前に要求値を明確にします。

表面放射率の設定や反射影響の抑制が解析精度に大きく影響します。

昼夜の条件や日射による表面加熱を考慮して、最適な撮影時間帯を選ぶ必要があります。

LiDARスキャナー

LiDARは三次元形状を高精度に取得できるため、凹凸の正確なモデル化や寸法検査に適します。

項目 内容
測距方式 パルス方式
測定精度 数センチメートル
最大測定距離 数百メートル
点密度 点毎平方メートル

点群データは建物のファサード形状や軒先のたわみを定量的に評価する際に有効です。

重量と消費電力が機体選定に影響しますので、機体側の搭載能力を必ず確認します。

高倍率ズームカメラ

高倍率ズームは遠方からでも小さなクラックや表面劣化を観察できる点が強みです。

光学ズームの倍率とセンサー解像度のバランスが、実運用での有効距離を決定します。

強力なズームは手ブレや気流の影響を受けやすいため、ジンバルの性能が重要になります。

公道や周辺施設から離れた安全な位置で撮影することで、リスクを低減しながら高倍率撮影を行えます。

飛行計画と現地運用

夕日と海を背景に飛行するドローン

ドローンによる建物調査で安全かつ効率的な成果を得るためには、綿密な飛行計画と現地での運用が欠かせません。

ここでは経路設計から現地誘導まで、実務で役立つポイントを実例を交えて解説します。

飛行経路設計

まず調査目的と必要なデータ解像度を明確にして、撮影モードを決定します。

次に建物の形状や周囲環境をもとに、撮影レイヤーを分けて経路を設計します。

経路設計では視認線と障害物回避を優先し、複数の高度レイヤーを設定することが基本です。

以下のチェックリストを基に、事前に自動航行と手動介入の切替ポイントを明確にしてください。

  • 調査範囲の輪郭確定
  • 高度ごとの撮影レイヤー
  • カメラオーバーラップ率
  • 離着陸地点と緊急退避経路
  • 障害物回避ウエイポイント

最後にシミュレーションで想定時間とバッテリー消費を確認し、予備の機体やバッテリーを手配します。

高度と速度設定

撮影目的に応じて高度を設定することが最重要です。

点検用途で細部の確認が必要な場合は低高度かつ高オーバーラップで撮影します。

一方、外観全体を俯瞰する場合は高高度でスイープ飛行を行い、広域の把握を優先します。

飛行速度はカメラのシャッタースピードやジンバルの追従性能に合わせて調整してください。

一般的には低高度撮影で秒速2〜5メートル、中高度で5〜10メートルが目安になりますが、機材と対象によって変わります。

風の強い日は速度を抑えてオーバーラップを高めると、品質を確保しやすくなります。

視界と気象確認

安全運航のために出発前に必ず最新の気象情報を確認します。

特に風速と風向き、降雨確率、視程は運航可否を左右する重要な指標です。

視界が悪い場合は精度が落ちるだけでなく、周辺の障害物を見落とすリスクが高まりますので中止を検討してください。

気温や寒暖差もバッテリー性能に影響しますので、季節に応じた運用ルールを設けると良いです。

定期的な気象チェックと、現地での短時間の確認を習慣化すると突然の天候変化にも対応しやすくなります。

周辺安全確認

現地到着後はまず現場周辺のリスクを可視化して共有します。

項目 確認内容
通行人 立入制限手配
電線類 目視と地図照合
車両 駐車および通行管理
建物足場 移動物の固定状況
動物 侵入防止対策

上表をもとに立入禁止区域や誘導員の配置を決め、関係者に説明します。

また、地上の見張り人を最低一名配置し、機体が視界外に入る場合は連携方法を事前に合意してください。

必要であれば現場の交通規制や管理者同意を取得し、記録を残すことを推奨します。

現地誘導と監視

現地では操縦者以外に必ずスポッターを置き、周囲の安全を常時監視します。

スポッターは死角の監視、通行人の誘導、緊急時の機体回収支援を担当します。

連絡手段は無線かハンドサインを決めて、事前にロールプレイで確認しておくと混乱が減ります。

作業前に関係者へ危険説明と作業範囲の可視化を行い、同意を得たうえで作業を開始します。

緊急着陸や機体故障時の手順を現地で共有し、必要物品や連絡先をすぐに参照できるようにしておきます。

法規制と許可手続き

山岳地帯の上空を飛ぶ小型ドローン

ドローンによる建物調査を安全かつ確実に行うには、法規制と許可手続きを事前に把握することが重要です。

国の航空法と自治体ごとのルールが重なり合うため、両方を確認して準備する必要があります。

航空法関連手続き

日本の航空法では、人や物件上空の飛行、目視外飛行、夜間飛行、高度150メートル超の飛行などが原則として許可制になっています。

これらに該当する飛行を行う場合は、国土交通省に対して飛行許可または承認を申請する必要があります。

申請はオンラインのシステムを通じて行い、飛行経路や時間帯、機体仕様、操縦者の情報を提出します。

審査では安全対策の妥当性や飛行の公共性が判断され、場合によっては追加の安全措置が求められます。

標準的な処理期間は案件の内容によって大きく変わりますので、余裕を持って申請することをおすすめします。

地方自治体の規制

自治体 規制内容 申請窓口
東京都 公園等での飛行規制 都庁の許認可課
大阪市 イベント時の上空規制 市役所航空対策窓口
京都市 歴史的景観周辺の制限 文化財保護課

自治体によって禁止区域や申請の要否、手続きの窓口が異なります。

観光地や公園、史跡周辺などは独自の運用ルールを設けていることが多く、事前に確認して承認を得る必要があります。

飛行許可申請書類

以下は代表的な申請書類の一覧です。

  • 所定の飛行許可申請書
  • 機体の仕様書または取扱説明書の写し
  • 操縦者の経歴書または資格証明書
  • 保険加入証明書
  • 詳細な飛行計画図
  • リスクアセスメントおよび安全対策説明書

書類は正確に記入し、必要に応じて写真や図面を添付すると審査がスムーズになります。

オンライン提出と郵送の両方が可能な場合がありますので、提出方法を事前に確認してください。

運航管理責任者

運航管理責任者は、日々の運航管理と安全確保の最終責任を負う役割になります。

具体的には機体の整備管理、飛行ログの保管、操縦者への指示と教育、緊急時の対応手順の整備などを担当します。

外部委託で調査を行う場合も、発注者側と委託業者の役割分担を明確にして、責任者を指定することが重要です。

経験と知識を持つ人物を選び、必要な研修やマニュアルの整備を行っておくと安心です。

保険と賠償対応

建物調査では、万が一の落下物や第三者被害に備えた賠償責任保険の加入が必須です。

補償額は被害規模に応じて設定する必要があり、対人と対物の両方をカバーする補償を検討ください。

保険契約の際は、調査用途での使用が対象になっているか、飛行条件の制限がないかを確認します。

事故発生時の連絡フローと現場での初期対応手順を契約書や業務マニュアルに明記しておくと、速やかな対応が可能になります。

また、損害賠償の分担や免責事項は、発注前に契約書で取り決めておくことをおすすめします。

データ処理と報告書作成

暗い背景をバックに浮かぶ白いドローン

ドローンで取得した画像やセンサー情報は、そのままでは活用が難しいため、後処理と整理が欠かせません。

適切な処理を行うことで、劣化箇所の特定や修繕優先度の判断がスムーズになります。

この章では写真測量から赤外線解析、点群処理、そして最終的な報告書の作成までを実務目線で解説します。

写真測量(フォトグラメトリ)

写真測量は重複する空撮画像を使って三次元モデルやオルソ画像を生成する手法です。

適切な画像オーバーラップとカメラ校正が高精度化の鍵になります。

処理の主な流れは次の通りです。

  • 画像の整理とジオタグ確認
  • 画像整列とカメラ姿勢推定
  • 密なマッチングと点群生成
  • メッシュ化とテクスチャ生成
  • オルソ補正と出力書き出し

出力形式はオルソモザイク、デジタル表面モデル(DSM)、および高解像度テクスチャ付きメッシュが一般的です。

点群生成

写真測量やLiDARから得られたデータは点群として扱い、さらに精度向上の処理を行います。

処理フェーズ 主なアウトプット
位置合わせ

座標系変換

基準点適用
粗密点群

位置精度向上

参照整合済みデータ
フィルタリング

ノイズ除去

外れ点削除
クリーン点群

処理負荷低減

解析準備完了
分類

地面と非地面分離

構造物抽出
用途別点群

面積算出用データ

断面抽出可能データ

点群はPLYやLAZ形式で納品し、点密度や精度レポートを添付します。

赤外線解析

赤外線カメラの画像は温度分布を視覚化し、潜在的な欠陥を示す重要な証拠になります。

解析ではカメラの校正、放射率設定、周辺温度の補正を行います。

内部構造の浮きや断熱材の欠損、水分の滞留などは温度異常として検出できます。

解析結果は画像上に温度マップを重ねて可視化し、閾値を用いたアラート抽出も実施します。

劣化箇所マーキング

解析で検出した劣化箇所は写真、オルソ、点群のいずれの座標系にもマッピングします。

現場での追跡が容易になるように、IDと位置情報を付与したCSVやGeoJSONで出力します。

視覚的な報告では、カラーコードやシンボルを用いて劣化種別と深刻度を一目で分かるようにします。

また、現地での手直し作業を想定した写真トリミングや拡大図も作成します。

修繕優先度評価

修繕の優先度は安全性、損傷の進行度、建物用途、費用見積もりなどを総合して判断します。

一般的にはスコアリング方式を用い、各評価項目に重みを付けることが多いです。

例えば漏水や構造的な損傷は高い重みを与え、外装の軽微な劣化は低めに評価します。

評価結果は短期対応、中期計画、長期監視の三段階に分類して提示します。

報告書フォーマット

報告書は実務で使いやすいように構成することが重要です。

推奨構成は要約、調査方法、解析結果、劣化箇所一覧、優先度判定、修繕提案、付録という流れになります。

本文中には高解像度の写真や断面図、点群のスクリーンショットを適宜配置します。

納品物としてはPDF報告書に加えて、オルソ画像、点群データ、赤外線原画像、評価CSVをセットで渡すと利便性が高まります。

最後に、次回の点検推奨時期や留意点を明記して、実行につながる報告書に仕上げます。

発注前の最終チェックポイント

氷河地帯の上空を飛ぶMavicドローン

発注前に確認すべき重要ポイントを簡潔にまとめます。

機材やセンサーの仕様、飛行許可の有無、現地の安全対策、納品データの形式と精度基準を事前にすり合わせておくと、トラブルを未然に防げます。

作業日程と代替日の設定、責任者の連絡先共有、保険の適用範囲確認も忘れないでください。

以下のチェックリストを使って、発注前の最終確認を行ってください。

  • 機材仕様確認
  • 撮影解像度・センサー確認
  • 許認可の取得状況
  • 飛行範囲と高度の同意
  • 気象条件の調整
  • 現地立会者の有無
  • データ納期とフォーマット
  • 保険・賠償範囲確認